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国家によるプロパガンダについて

今年、エドワード・バーネイズ著、中田安彦訳『プロパガンダ[新版]』(成甲書房  2010年)を読んで面白かったのだが、米国広報委員会(Committee on Public Information CPI 通称:クリール委員会)について知れたことが良かった(割いてるページは少ないけど)。

・イギリスのウィルフレッド・トロッターという心理学者は、第一次世界大戦中に発表した『群衆の本能』(The Instinct of the herd)という本で、人間は批判的な理性ではなく無意識的で本能的な動機に従うと論じ、大衆を個人個人としてではなく一つの集団として扱い、管理する方法の有効性を主張した。いかにも大戦時らしい考えであり、この心理学は、大衆を戦争目的のもとに団結させるという狙いがあった。
・トロッターの研究は連合国の戦争遂行に大きな影響をあたえた。軍隊生活や戦時下の動員体制を維持するためには、個性を尊重するのではなく、大衆をひとまとめの集団として管理しなければならない、という思想がアメリカの支配層に広がっていった。こうした社会心理学の理論的裏付けを得た学者やジャーナリストたちが集まって1917年にウィルソン大統領の提案で結成されたのが、第一次世界大戦におけるアメリカの「宣伝マシーン」である「クリール委員会」という政府組織である。この委員会は正式名称を「米国広報委員会」(CPI)という。第一次世界大戦への国内の参戦世論の育成や戦意高揚の維持を目的に結成された。メンバーには、会長にジャーナリストのジョージ・クリール、ウォルター・リ ップマンといった人物が参加していた。本書の著者バーネイズも中核ではないが、CPIの海外報道部のラテン・アメリカ局の一員として参加している。

この委員会での手法が今に続く国家によるプロパガンダ手法の雛形になっている。
 
いま、福島第一原発の「処理水海洋放出」(都合のいいネーミングも手法の一つ)問題で、プロパガンダ(PR)活動が事故直後以来、最高潮に活発化している。本の中には「オピニオンリーダー」を使って、世論を誘導する方法や、外部の組織を使って情報の権威付けをする方法など、いままさに眼前に繰り広げられている手法がたくさん出てくるので非常に参考になった。